• 小野田 孝

高付加価値経営と変革人材②

更新日:2020年11月22日

高付加価値経営を実現する企業


✅ 日本の高度経済成長を支えた製造業の少品目大量生産体システムは、顧客のニーズが均一で単調な時代に生まれた生産形態であった。時を経て現代は、市場のグローバル化と顧客ニーズの多様化や不安定化により、多くの日本企業の価値の提供方法は、少量多品目生産やカスタマイズ、あるいは価格の妥協を背景にしたものへと移行した。


✅高付加価値経営とは、多様化する顧客のニーズに対し、唯一性、刹那性、独自性、先見性に富んだ価値を提供することを通じて高い収益をあげ続ける企業。また、それを成し遂げる原動力として、変革し続ける組織と個人を有する企業の経営、とここでは定義する。


 株式会社小野田コミュニケーションデザイン事務所の小野田孝です。

 私は経済学者や評論家ではありません。1983年より(株)リクルートという類いまれな変革気質に富んだ壮大なビジネススクール型企業に21年間在籍し、その経験を基盤に2005年に独立。以来15年間、顧客企業の組織と働く人の変革を通じた事業支援を続けている、現場たたき上げの「かかりつけ医型コンサルタント」です。

 前回の「ジャーナル」では、日本の衰退トレンドにおける反転のシナリオは、「企業が高付加価値経営へと舵を切り、一人ひとりの被雇用者が、変革人材として高付加価値経営に影響を与えること」だと書きました。今回は高付加価値経営とは何か、を中心にお話します。


●マスからマイクロへ 安定から不安定へ 変化する市場


 企業の存続は、顧客に価値を提供し、顧客がその価値に納得して対価を払うことを通じて収益を上げていくことが前提です。このごく当たり前の前提が、今、大変難しい命題となってきました。理由は2つです。

 ひとつは、企業の提供価値が、容易に他社でも模倣できるようになったことです。独自性を打ち出すことが難しくなったのです。世界に生産拠点や消費者市場が広がるにつれ、商品やサービスに内在する価値が個性を持たなくなってしまったのです。

 もう一つは、消費者のニーズが多様化し、かつ短期間に変化するようになったことです。

一定期間は消費者のニーズが変わらないことを前提に価値を組み立ててきた企業のバリューチェーンが、早いサイクルで変化するニーズに対応できないことが原因です。


●日本型単一市場と経済成長の仕組み


 さてこの2つの大きな変化を、日本のこれまでの歩みと照らし合わせて考えてみます。

 現在、日本の国内総生産(名目GDP)は約550兆円余りです。これは、1945年に第二次世界大戦が終わり、戦後復興から50年以上かけて力を付けてきた単年度の付加価値の総和です。この期間に日本経済が成長できたのは、国内外の顧客ニーズが単一だったからです。


 「三種の神器」という言葉があります。1950年代、テレビ、洗濯機、冷蔵庫の3製品を称してこう言いました。経済成長期に入る日本人のニーズは、「新しい暮らし」を象徴するこれら家電3点にほぼ集約されました。乾いた市場は、単一化したニーズの象徴だったのです。これは企業にとっては対応しやすい市場です。これを受けて「少品目大量生産」という日本型産業革命ともいえる製造業の成長期がやってきました。

 この単一化された市場は、消費者(被雇用者)の側から見るとステレオタイプのライフスタイルを生み出します。この時代、国の規模を安定的に拡大するという政策のもと、家族の形態は「夫婦と子供2人」に標準化されていきます。安定的に生まれてくる子供は、多くは18年後には高校を出て労働市場に出、数年後には結婚し2DKの団地に住み、やがて子供を2人程度生んでまた4人家族になる。そんな標準的な人生サイクルが国民の中に広く根付いていきます。


 これは国をマネジメントする政府にとっては諸施策の計画が立てやすいシステムです。公共投資や福祉などの財政の見通しができるからです。また企業側も、毎年の求職者数をもとに採用計画と長期の事業計画を立てやすくやすくなります。これらの要素があいまって、「長期で安定的な生産構造システム」が産業界で作られました。

 ところで被雇用者にとっては、この長期で安定的な生産構造システムに組み込まれると、短期間な変化を起こしにくくなります。ステレオタイプな人生を全うすることが、人生のベストプランとなるからです。結果、採用は新卒、序列は年功、雇用は終身というシステムが社会で歓迎されながら定着し、被雇用者は企業に参加し群れながら、はみ出さず年月を重ねて生涯を全うしていくようになったのです。


●企業のビジョンに「わくわく」していますか


 ところが、今ではすっかりこのシステムが「GDPの伸び」(付加価値総和の伸び)と連関しなくなりました。

 日本企業が生み出してきた付加価値はすぐに模倣されて陳腐化し、市場のニーズは多様化して少品目大量生産が通用しません。企業には「模倣されない独自性の強い付加価値の創造と、多様な顧客ニーズを予見して対応する力」が必要になったのでがす。

 同時に被雇用者にも、「企業に参加し、慎みながら時間を費やす」ことから「企業の高付加価値提供に寄与する」ことへの、発想と実態の転換が求められるようになりました。

 私はこのコラムの1回目でアベノミクスについて、「企業と国民がアベノミクスを十分には活用できませんでした」と、述べました。企業や生活者、つまり民間が政府の仕掛けを高付加価値の創造に転換できなかったのです。


 では、どうしたら高付加価値経営が実現できるのでしょうか。

 まずは付加価値とは何かを改めて確認しましょう。ある原材料を仕入れたときの価値をここでは「初期価値(=原価)」とします。これに、機能を強化したり便利さを加えたりして最終的に商品を通じて提供した価値を「最終提供価値(=価格)」とします。この最終提供価値から初期価値を差し引いたものが付加価値、売上総利益(粗利)です。

<図1>


 

 また、この付加価値から販管費などの経費を差し引いたものが「営業利益」です。図1を見てください。つまり、A社がある商品を1000円の価格で売る場合、仕入れた原料の初期価値が100円だったとすると、900円が付加価値(売上総利益<粗利>)です。ここから仮に販管費が300円だとすると、これを差し引いた600円が営業利益となるわけです。B社も初期価値100円の同じ原料を仕入れたとします。しかしB社の販売価格は150円。付加価値は50円です。そこから経費を差し引けば営業利益は赤字です。B社が営業利益を出すためには、初期価値を小さくするか、付加価値を大きくして最終価値(=価格)を高める必要があるのです。



<図2> 日本企業の売上高は、2009年に落ち込んだ後、ほぼ横ばいです。それにもかかわらず、経常利益は2018年まで上がり続けました。これは、最終提供価値(売上)を高めることができない中で、企業が販管費(特に人件費関連)や償却費等の経費を削減することや財務活動に重きを置いた成果です。その結果、経常利益が上がっているにもかかわらず、被雇用者が受け取る賃金は横ばいの状態が続きました。企業が経費の削減ではなく、高付加価値経営に取り組めば、利益が上がるだけでなく、賃金も右肩上がりになるのです。


 ところで、企業が提供する高付加価値の条件は何でしょうか。代表的なものは、①唯一性 ②刹那性 ③独自性 ④先見性です。

 「唯一性」は、他では提供できない価値です。GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)や、BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)が良い例です。(独禁法に抵触しないことを前提に)唯一性が著しく高いと最終価値(=価格)が高くても市場がついてきます。

 「刹那性」は、その時にだけ提供する価値です。日本では「旬」といわれます。あるいは「一年に一度」といった触れ込みのサービスや商品です。

 「独創性」は、際だった特徴が提供されている価値です。キワもの、ちょっと変わっている、と表現されることもあるかもしれません。「オンリーワン」という価値です。

 「先見性」は市場の期待を超えた驚きや感動の提供です。夢に見ていたことが現実になった、とか、このようなことに出会いたかった!などの実現です。


 これらの高付加価値を創造する企業には、共通した特徴があります。ひとつは、被雇用者が、自社の企業理念に心酔し、実現に向けての強い使命感をもっていることです。マインドコントロール的な心酔ではなく、企業が提供する価値に圧倒的な性善説で向き合っていることです。また同時に、企業のビジョンに被雇用者が「わくわく」していることです。この事業の仲間になれて幸せである、早くビジョンを実現したい、と被雇用者がみな願っている状態、「自社の提供する価値で地球が熱狂しているか」の自問自答に迷いなく「はい」と応えている状態です。

 ところで、そのような価値は二番煎じからは生まれません。二番煎じ企業の目標は、一位に追いつくことだからです。そこには高付加価値創造の欲求はありません。高付加価値はナンバーワン企業かオンリーワン企業からしか創造されないのです。


●「あったらいいな」を考える


 みなさんがご存じの「小林製薬」という会社があります。小林製薬のブランドスローガンは「“あったらいいな”をカタチにする」です。同社のウエブサイトによると、「お客様も気づいていない必要なものを発見し、こんなものがあったらいいな、をカタチにして、一刻も早く送り届けます」ということだそうです。私は小林製薬の関係者の方にお会いしたことはありません。が、おそらく皆さん、ワクワクしながら大きな夢を持って仕事に向き合っていらっしゃることでしょう。素晴らしい企業だと思います。


 閑話休題。

 さて、国際協力銀行によると、日本企業の海外売上高比率は2019年度で約38%で、自動車、電機電子、一般機械などは40%を超えています。この比率はこれまで右肩上がりで増えてきましたが、2015年あたりから減少または横ばいとなっています。また昨今は新型コロナの影響で人の往来や積極的な消費が急激に減速しています。一方で、個人金融資産が増える傾向にあります。日銀によると、個人金融資産の合計は、今年6月末時点で1,883兆円。今年3月と比べて55兆円、3%増えました。



<図3>経済産業省の調査に基づき、日本企業の海外現地法人の売上高の推移と、製造業の海外生産比率の推移を示したグラフです。2010年ごろから海外生産比率が高まってきましたが、ここ数年は横ばいで、売上高も微増にとどまっています。コロナ禍もあいまって、日本企業は海外市場に依存しない新たな戦略に迫られています。


 これらの状況を踏まえれば、高付加価値経営を目指す企業は、国内市場への回帰を戦略の一つに置くことも一考だと思います。消費者の生活習慣や志向が掴みやすく、感動のツボや期待の背景が読みやすい日本人の「あったらいいな」を予見し、多様化したニーズに応える体制を整えることは、企業の最終価値(=価格)を十分に対価で充足することと思います。その実現に必要なのは、日本社会のニーズを敏感に察知し、「高付加価値経営に貢献する変革人材」です。それはどんな人材なのか、次回のコラムでご一緒に考えましょう。


 あなたの会社は高付加価値経営を実現していますか。



※「オノコミ・ジャーナル~衰退局面の日本を反転させる処方箋」は、毎月12日、28日に更新します。



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