アベノミクスは経済を再生したか
✅わが国の経済の浮沈の鍵は、国家政策に、企業の高付加価値創造型経営と、生活者の意
欲を満たす旺盛で安心感に満ちた屈託のない消費行動が呼応できるかどうかにある。
✅2回に渡る安倍政権の「アベノミクス」によって市場に流通する貨幣量は増加した。そ
のため資金の受け皿である株式市場は活況を呈した。
✅一方、企業の付加価値創造力とは連関しなかったために国家規模の付加価値の総量であ
るGDPは伸びず、分配先の被雇用者の賃金も増えなかった。
株式会社小野田コミュニケーションデザイン事務所の小野田孝です。はじめまして。
私は経済学者や評論家ではありません。1983年より(株)リクルートという類いまれな変革気質に富んだ壮大なビジネススクール型企業に21年間在籍し、その経験を基盤に2005年に独立。以来15年間、顧客企業の組織と働く人の変革を通じた事業支援を続けている、現場たたき上げの「かかりつけ医型コンサルタント」です。
●三本の矢は経済を再生したか
さてこのブログは、アベノミクスの話から始めたいと思います。
安倍晋三首相は8月28日に辞意を表明し、9月16日には菅義偉氏が第99代首相に指名され、歴代最長となった安倍政権は幕を下ろしました。アベノミクスは、すでに少し古い話になってしまいましたが、日本のこれからを考えるうえで、大切なことだと思いますので、ここから始めます。
安倍政権の7年8カ月を振り返る報道では、首相自らが2013年にニューヨーク証券取引所でスピーチし、「バイ・マイ・アベノミクス(アベノミクスは買いだ)」とアピールする姿が何度も流れました。
アベノミクスとは、安倍首相が、第二次安倍政権で経済政策として掲げた「金融緩和」、「財政出動」、「民間企業の成長戦略」の三本の矢が中心です。首相は、続く第三次安倍政権でも、「強い経済(名目GDP600兆円)」「子育て支援(希望出生率1.8)」「安心につながる社会保障(介護離職者ゼロ)」の新・三本の矢を掲げ、日本経済の再生を目指しました。
安倍首相は辞任会見で「20年続いたデフレに三本の矢で挑み、400万人を超える雇用を作り出すことができた」と述べ、その成果を強調しました。
発言のとおりだと思います。20年続いたデフレには3本の矢で挑みましたし、400万人を超える雇用(雇用形態はともかくとして)を作り出すこともできました。成功です。
しかし、名目GDPは600兆円にはなりませんでしたし、介護離職者はゼロにはなりませんでした。その意味では失敗です。
ただ、このような成否の議論は不毛です。なぜならば政府の政策はあくまでも経済拡大に向けての環境支援にすぎず、GDPを増やしたり離職を減らしたりすることの直接的な動力源ではないからです。アベノミクスで掲げた政策が成功するためには、企業や生活者との連関が最も重要なのです。選挙によって選出される為政者としては発言しにくいのかもしれませんが、今回の総括は「企業と国民がアベノミクスを十分には活用出来ませんでしたね」でよいのです。

(図1)日経平均株価は2009年3月には7000円台にまで落ち込んだ。しかし13年末には「アベノミクス」の後押しもあり、16,291円と前年末から56.7%も上昇。年間の上昇率は41年ぶりの高さとなった。


(図2,3)2013年以降、株価が上昇する一方で、経済活動により生み出された付加価値の合計額であるGDPの成長率は、右肩上がりとはなっていない。被雇用者の給与も横ばいだ。日本経済の再生を目指したアベノミクスだったが、企業と生活者が呼応できなかったために国民の多くは経済拡大実感が得られていない。
●日本を救うキーワードは高付加価値経営
では、企業が、政府の政策と呼応してGDP拡大に貢献し、労働分配を通して働く人の収入を増やすには、どうしたらいいのでしょうか。そのキーワードは「高付加価値経営」と「高付加価値労働」です。
日本は、衰退局面にあります。国内の生産年齢人口と総人口が増え続け、個人消費が需要過多の中で伸び続け、海外の個人市場でも日本企業が創る製品の価格と品質が歓迎され輸出が伸び続けていた「右肩上がり」の時代には二度と戻ることはありません。そのころの企業経営の在り方や、労働習慣の実績や記憶の「賞味期限」は、かなり以前に切れています。
私は、右肩上がりの時代からの慣性の呪縛を解いて「変革したい」と考える企業や個人の背中を押すことを、使命としています。その過程で感じることは、企業経営と労働習慣に宿る慣性の賞味期限を理解し、「見切りをつける知見と覚悟を有する企業や被雇用者」と、その知見と覚悟を有しない企業や被雇用者の二極化です。
新型コロナウイルスの感染拡大により、経済は先行きの見えない不安に陥っています。また国内の個人市場に限れば、わが国の人口は2100年の4,000~6,000万人に向けて恒常的に縮小します。この動かしがたい衰退トレンドを前に描ける反転のシナリオは、「企業が高付加価値経営へと舵を切り、一人ひとりの被雇用者が変革人材として高付加価値経営に影響を与えること」です。
高付加価値経営とはどのような様で、変革人材とはどのような人物なのか、についての私なりの見解は次回にお話しします。
皆さんはこの国の未来。どのようにお考えになりますか。
※「オノコミ・ジャーナル~衰退局面の日本を反転させる処方箋」は、毎月12日、28日に更新します。
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