変革人材とは
✅あなたは変革人材ですか?
□研ぎ澄まされた感覚で未来を予見する力がある。
□企業理念やビジョンへの深い共感があり、それを実現する原動力でありたいと願う。
□プロダクトの出来栄えだけでなく、バリューチェーンに強いこだわりがある。
□自分も欲しがる製品かどうかを徹底的に自問自答する。
□顧客を驚かせている、市場を熱狂させている無邪気な夢を見る妄想家である。
□「群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌う」ドクターXに共感する。
株式会社小野田コミュニケーションデザイン事務所の小野田孝です。
私は経済学者や評論家ではありません。1983年より(株)リクルートという類いまれな変革気質に富んだ壮大なビジネススクール型企業に21年間在籍し、その経験を基盤に2005年に独立。以来15年間、顧客企業の組織と働く人の変革を通じた事業支援を続けている、現場たたき上げの「かかりつけ医型コンサルタント」です。
前回のジャーナルでは、高付加価値創造企業には「唯一性、独自性、刹那性、先見性」がある、とお伝えしました。今回は、そのような企業の動力源である変革人材を取り上げます。
●変革人材は、未知の世界を屈託のない明るさで照らす希望である
変革人材とはどのような人物か。冒頭にキーワードを並べてみましたが、当てはまるものはいくつありましたでしょうか。これからひとつずつ解説しますので、ご一緒に考えていきましょう。
ところで本題に入る前に、変革人材が、社会や企業、ひいてはその人自身にどのような影響を与えるのかをお話します。
前回までのジャーナルで私は、衰退局面にある日本を再浮上させるのは、高付加価値創造企業である、とお話ししました。その前提に立てば、高付加価値創造企業を支え、原動力になる変革人材は、日本を衰退局面から救うカギであると言えます。
変革人材とは、自身の能力を社会に提供する価値に積極的に転換することができる人です。また、自身が社会に提供した価値の対価で自身や家族の生命や財産を守ることができる人です。組織の疲労した慣性に巻き込まれたまま、劣化し続ける提供価値に無頓着である人材とは対極です。
また変革人材は、これから日本が直面する「大フリーランス時代」の先頭ランナーでもあります。日本人はこれから、どこの会社・組織に混ざるのか、よりも、誰とどのような提供価値を創るのか、を大事にするようになります。「誰と働くか」を重視するフリーランス的なスタンスを持つ変革人材は、所属企業を高付加価値創造に昇華させる原動力になると共に、自身と家族の生命と財産を守る抵抗力を身につけていくのです。
こうした変革人材がもたらす組織あるいは社会への変化は、「慣れ合い」や「同質化」が生み出す既成の安定を破壊するエネルギーを持ちます。古い慣習や既得権益にしがみつく人たちからは疎まれますが、良質な変革は、時代の勢いを借りながら、企業や国を新たなステージに進化させていくのです。このような純粋に脱皮を促すエネルギーには、強い希望と期待が宿ります。イノベーションの真骨頂です。つまり、変革人材は、未知の世界を屈託のない明るさで照らす希望なのです。
(図1)組織と被雇用者の関係は、被雇用者が組織に従属する昭和型から、組織と被雇用者が対等な関係で協働する新しい型へと変化していくだろう。
●同質からの離脱、異質との協業
では、変革人材の要素はどのようなものなのか、冒頭のリストにそって考えましょう。
□研ぎ澄まされた感覚で未来を予見する力がある。
自分の仕事に、「時代に合っていない気がする」という違和感を持つことはありませんか。それが変革の出発点です。違和感の正体が何なのか、好き嫌いや苦手得意の感情論ではなく、感覚的にとらえた「ざらつき」を事実やデータなどのエビデンスで冷静に分析し、この先に何が起こるのかを考える。これが未来を予見することです。
□企業理念やビジョンへの深い共感があり、それを実現する原動力でありたいと願う。
あなたは自分の会社の企業理念やビジョンをじっくり読みこんだことがありますか。そこには創業の魂や、全社員で共有したい目指す夢が書かれています。こうした企業理念やビジョンを、日常の作業とかけ離れた金科玉条とするのではなく、「自分は、それを実現する仕掛け人でありたい」という強い動機を抱けるかどうか。もう一度、自社の志に照らして、自分のスタンスを振り返ってみましょう。
□プロダクトの出来栄えだけでなく、バリューチェーンに強いこだわりがある。
製品が世に出されるまで、どのような工程が積み重なって価値に昇華していくのか。出口だけでなく、その過程全体を深く理解し、関心を持つことで高付加価値創造に必要なイノベーションが生まれます。目の前の作業をこなすだけでは、どんなに一生懸命であったとしても、変革につながる発想は生まれません。価値創造の仕組みに関心を寄せることが必要です。
□自分も欲しがる製品かどうかを徹底的に自問自答する。
自社のサービスや製品について、あなたはどのぐらい自信がありますか。市場での競争力や売上も判断基準のひとつですが、変革人材として考えてほしいのは、「自分が納得しているものを市場に送り出しているか」です。前回のブログでご紹介した小林製薬の「あったらいいな」は、消費者としての自分が欲しいかどうか、を社員に考えさせるフレーズでした。これは、消費者のニーズにきめ細かくこたえる「多品目少量生産」型市場の時代に不可欠な視点です。
□顧客を驚かせている、市場を熱狂させている無邪気な夢を見る妄想家である。
変革人材は、いい意味での妄想家、夢想家です。ロマンチストで、人々が喜んでいる様子や「ありがとう」といわれることを夢見ます。「欲しい」と思ったものがまだ世の中にないことに気づいたときの興奮、だれも気付かないうちに何とかしたい、という無邪気な焦り。知的好奇心が成せるひらめき、あそび心やいたずら心、そういったものを持ち合わせた純粋な大人――それが変革人材です。ニトリの「お、ねだん以上」、ファーストリテイリング(ユニクロ)の「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」などには、自らの商品で市場を熱狂させたいという夢を感じます。
□群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌う。
このフレーズは、テレビドラマ「ドクターX」からいただきました。変革人材にとって「個」であることはとても重要です。群れから離れる決断は、自立する強さを生みます。同調圧力に屈しない。忖度をしない。そんな変革人材の特徴が、このフレーズに凝縮されています。一方で、変革人材は無節操な破壊者ではありません。個に閉じることなく、仲間と協業して変革に取り組める喜びを求める人でなくてはなりません。異文化や異質なものを取り入れる多様性を併せ持つのです。同質から離脱し、異質との協働を好む。これが変革人材です。
(図2)2017年度版中小企業白書から、日本の起業を担っている起業希望者数(青)、起業準備者数(緑)、起業家数(黄)の推移をグラフにした。起業希望者数、起業準備者数は1997年から減少傾向にあり、起業家数も少しずつ減少している。しかし、起業希望者に対する起業家の割合(赤字)は、1997年から2012年にかけて増加が見られる。つまり、起業したいと思って実際に起業をする人たちの割合が増えていることがわかる。
(図3)このグラフは、起業意識を測るために、「周囲に起業家がいる」、「周囲に起業に有利な機会がある」、「起業するために必要な知識、能力、経験がある」の3点のいずれについても「該当しない」と回答した人を、「起業に関心がない人」とし、全体に占める割合の推移を各国別に比べたもの。日本の起業無関心者の割合が、欧米諸国に比べて高い水準で推移していることが分かる
さて、高付加価値経営の原動力となる変革人材の特徴を列記してみました。多くが、考え方や心のありようについて説明しています。組織や社会を変えていくことは、まず自分の心のありようから始まります。心、知識、経験、環境など自分を構成するさまざまな要素を一度、棚卸しして目指すべき方向を整理してみませんか。次回のジャーナルでは、変革人材を企業や社会はどう活かしたらいいのか、ということを考えましょう。
あなたは変革人材ですか。あなたの周りには変革人材はいますか。
※「オノコミ・ジャーナル~衰退局面の日本を反転させる処方箋」は、毎月12日、28日に更新します。
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