• 小野田 孝

2100年、リサイズにっぽん ~人口減少時代の新芽の息吹~①

「6000万人」国家を考える


✅約80年後の2100年、日本の人口は現在の約半分、6,000万人にまで減少する。しかし、人口減少を「縮んでいく」と捉えるのではなく、知恵と時間のエネルギーをもって全く別の世界を作り上げる楽しみな機会として考えたい。


✅これまでの企業の変遷を振り返えると、国内の市場規模や社会の価値観の変化が事業の成否に大きく影響していることが分かる。これから先の80年間、国内の市場規模と業界傘下の企業数が適切なバランスになるまでは厳しい淘汰が起きるだろうが、経済基盤の再構築には必要な過程である。


人口6,000万人規模の社会は、今よりもずっと為政者にとっては仕事がしやすくなるだろう。衆議院の小選挙区は現在の半分程度に減り、地方自治体は再編され、行政の目が行き届く国家になっていく。


 株式会社小野田コミュニケーションデザイン事務所の小野田孝です。

 私は経済学者や評論家ではありません。1983年より(株)リクルートという類いまれな変革気質に富んだ壮大なビジネススクール型企業に21年間在籍し、その経験を基盤に2005年に独立。以来15年間、顧客企業の組織と働く人の変革を通じた事業支援を続けている、現場たたき上げの「かかりつけ医型コンサルタント」です。

 今回からは、ジャーナルの新しいシリーズとして「2100年、リサイズにっぽん~人口減少時代の新芽の息吹」を4回に分けてお届けします。

 80年後、日本の人口は現在の半分になるといわれています。経済の規模の大きさで国際社会に貢献してきた日本の位置づけは変わるでしょう。しかし、規模が小さくなることは悪いことばかりではありません。新シリーズ第1回の今回は、2100年までの約80年間、日本が変わっていくことで生まれる様々な可能性を過去のデータももとにしながら考えてみたいと思います。2100年。令和3年生まれの新生児は79歳になっています。


●6000万人国家の息吹 


 2020年7月、アメリカ・ワシントン大学医学校の保健指標評価研究所(IHME)が世界の人口について「2064年の97億人をピークに減少に転じ、2100年には88億人に縮小する」という見通しを発表しました。国別の人口についても予測しており、日本は現在の約1億2,800万人から、2100年には約半分の6,000万人に減る、としています。

 日本政府も、同様の推測をしています。国立社会保障・人口問題研究所によると、日本の人口は2010年の1億2,806万人をピークに減少し、2100年には、高位推計で6,485万人、中位推計では4,959万人、低位推計では3,795万人になる見込みです。これからの80年間で、半分、あるいは3分の1になるとの予測なのです。

 「人口6,000万人の国」とは、どんな国でしょうか。現在の世界でみれば、タイ(6,900万人)、フランス(6,500万人)、イタリア(6,000万人)、英国(6,700万人)などです。東アジアでいえば韓国(5,100万人)が近い規模です。ただし、それぞれの国には地理的、政治的、歴史的に固有の条件があり、人口規模だけで「2100年の日本」が想像できるわけではありません。ちなみに日本では、1925年(大正14年)の人口が約6,000万人でした。約100年前、昭和元年の手前まで戻ると人口6,000万人の日本が現れるというわけです。

 日本は1世紀をかけて人口が2倍になり、これから先の80年間で半減します。厚生労働省が昨年7月に発表した簡易生命表によりますと、日本人の平均寿命は女性が87.45歳、男性が81.41歳だそうです。つまり、これから皆さんと一緒に考える「80年」という時間は、人間の一生の長さとほぼ同じです。赤ちゃんが生まれ、育ち、学び、働き、次世代を産み育てて、天寿全うしていく時間。そう考えると、これから先の80年間には思いもよらない大きな変化が起きても不思議ではありません。

 人口減少時代を、「縮んでいく」と捉えるのではなく、我々の知恵と時間のエネルギーが全く別の世界を作り上げていくことを楽しみにしましょう。


●経済の息吹


 投資家のジム・ロジャースは、「危機の時代」という本の中で、「世界はおおむね15年で激変する」と書いています。だとすれば、このジャーナルが考察しようとしている80年という時間は、表層的・現象的な変化のみならず、社会の仕組みや人間の思想に至るまで、根本的な変革が起きる可能性があるのです。

 ここでは、80年という時間のエネルギーが企業に与えた影響を、過去を振り返りながら考えてみましょう。


◇銀行業界の再編

 第一勧業銀行、富士銀行、三和銀行、埼玉銀行。このような名前の銀行があったことを、知らない人たちも多いのではないでしょうか。今、「三大メガバンク」といわれている「みずほ銀行」「三菱UFJ銀行」「三井住友銀行」は、主に平成時代に多くの銀行が経営統合を繰り返し、現在の形になっています。1990年代からですから、80年どころか30年余りの出来事です。銀行業界では、就職時と退職時で名刺の行名が変わった人がたくさんいます。

◇造船業界の再編

 2019年11月、造船業界で大きな動きがありました。船の建造量で国内首位の今治造船と、2位のジャパンマリンユナイテッド(JMU)が資本提携することで合意したのです。報道では、「中国や韓国の造船会社の台頭で日本勢は劣勢のため、競争力を高める」ことが目的とされています。これに続き、2020年8月には、業界6位の旧三井造船の三井E&S造船と、9位の常石造船が資本提携に向け協議を開始しました。

 現在、大手といわれる造船会社は9社ですが、1950年代には20 社余り、1980年代には30社ほどが「主要造船所」と呼ばれていました。国際的な競争を生き抜くために吸収・合併を繰り返し、現在の形態になり、さらに再編が進んでいます。


◇就職人気企業ランキング

 毎年、就職活動の季節になると発表される就職人気企業ランキングにも、「時間のエネルギー」が垣間見えます。さすがに80年前は戦前ということで比較が難しいので、その半分、40年前のランキングと比較してみましょう。


◇企業の時価総額ランキング

 企業の業績に対する評価や将来への期待を表す「時価総額」のランキングもまた、時代の変化を色濃く映します。ここではバブル経済ピーク時の1989年の時価総額ランキングを現在と比較します。

 一目瞭然ですが、1989年のリストには経営統合などで今はない企業名がずらりと並んでいます。そして2021年のリストには、1981年設立のソフトバンクグループ、1984年にユニクロ一号店を出店したファーストリテイリング、海外売上比率が5割を超えるキーエンスなど、バブル崩壊後の社会で「高付加価値」を創造してきた企業が名前を連ねます。時間のエネルギーは30年間でこれほど大きな変化を起こすのです。


◇プロ野球チーム

 最後に、少し観点が違いますが、プロ野球球団の80年間の変遷にも触れておきます。懐かしい球団名もあるのではないでしょうか。1993年には、サッカーのJリーグが10クラブでスタートし、以来、野球と人気を二分しています。プロスポーツ界も今後80年で新たな機構の誕生や再編があるかもしれません。


 これまでの80年間あるいは40年間の企業の変遷を振り返ってみると、国内外の市場規模や顧客の価値観の変化が事業の成否に大きく影響していることが分かります。一般に、人口が5,000万人ぐらいであれば、国内でひとつの産業が誕生するといわれます。例えば韓国は人口が5,000万人ですから、自動車、造船、鉄鋼などの産業が誕生しています。しかし、代表的な産業下の企業数は1,2社です。

 人口が6,000万人に減少する日本では、国内市場をターゲットにしている産業で、すでに業界再編が始まっています。これから先の80年間では、国内の市場規模と業界傘下の企業数が適切なバランスになるまでは厳しい淘汰が起きるでしょう。一方で、多くの企業が、今以上に拡大する市場を求めて海外に軸足を置き替えていくと思われます。政府と、世界に市場を求める日本企業と、日本国内に生活の軸足を置く日本人被雇用者が、別々の方向を向いた動きになっていきます。しかしこれらの過程は日本の新たな国際社会におけるプレゼンスを整えるためには必然です。


●政治の息吹


 2100年までのリサイズの時代に、わたしたち国民はどのような政治を必要とするのでしょうか。おそらく人口6000万人の規模は、今よりもずっと為政者にとっては仕事がしやすくなっていると思います。

 前回のジャーナルで、「ニューノーマルが求める『国家と国民の協業』」ということを考えました。人口減少は、優れた為政者の覚悟と叡智をもっても解決できない国家課題です。しかし、為政者が国民に事態を正確に伝え危機感を共有し、為政者から国民への誠実で謙虚な依頼の呼びかけがあれば、両者の「協業」が可能になります。そしてこの、双方向の働きかけを礎とする協業は、人口サイズが小さければ小さいほど実行しやすくなるのです。道州制の議論はこの概念が源でしたが、従来の統治の慣性が新たな概念を拒絶してしまいました。

 今後の国家統治に関しては衆議院の小選挙区は現在の289から140程度に減るでしょう。都道府県や自治体の区分も再編され、中央集権であってもかなり行政の目が行き届く国家になっていきます。

 ところで今、我々はよく為政者が「国民の皆さんの意見を聞き」とか「国民の皆さんのために」と発言していることを耳にします。そしてつい「国民のみなさん」と言われると「私のことだ!」と思ってしまいます。ところが多くの場合、そうではありません。自分とは違う人々のことです。1億2,000万人の国民は様々な局面で多様なので、為政者が語る国民も多様なのです。従って、為政者が発言した様々な施策が、なかなか自身の身近に起こりえないことになるのです。このようなことも、6,000万人程度になれば、為政者による施策が「すべての国民の身近に」いきわたり易くなります。


 今回は2100年までの「80年」という時間のエネルギーについて考えてみました。ただし、時間に身を任せているだけでは楽しみな未来は描けません。企業にしても個人にしても、サイズと質を上手に変容させるためには、時間のエネルギーを「ワクワクしながら賢く使う」という私たち自身の取り組みが必要になります。

 次回以降のジャーナルでは、これからの80年に向けて私たち自身はどのように「ワクワクする未来」を想起していくべきなのか、具体的にご一緒に考えてみたいと思います。


※「オノコミ・ジャーナル~衰退局面の日本を反転させる処方箋」は、毎月12日、28日に更新します。



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