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小野田 孝

日本をリポジショニングする ①


日本の居場所がなくなる日


 株式会社小野田コミュニケーションデザイン事務所の小野田孝です。

 私は1983年より(株)リクルートという類いまれな変革気質に富んだ壮大なビジネススクール型企業に21年間在籍したのち、2005年に独立して以来16年間、顧客企業の組織と働く人の変革を通じた事業支援を続けている、現場たたき上げの「かかりつけ医型コンサルタント」です。評論家や経済学者ではありませんが、オノコミ・ジャーナル「衰退局面の日本を反転させる処方箋」を昨年の秋よりホームページで展開し、今回からは新たなシリーズとして「日本をリポジショニングする」をお送りします。

 地球全体を覆う問題が多発する今、これまで国際社会を形作ってきたイデオロギーや価値観が揺らいでいます。日本はどこへ向かうのか。今回からのシリーズではそのことを皆さんとご一緒に考えてみたいと思います。

 

「事実」からみえること                   


 考察を始める前に、今日本を囲む世界で何が起きているのか、いくつかの事実を列記してみたいと思います。いずれも現在起きていることです。


・中国に対して強烈なメッセージを出し続ける米国バイデン政権

 バイデン政権の中国に対する強硬姿勢が目立っています。バイデン氏が副大統領を務めたオバマ政権下での中国政策は「弱腰で失敗した」との見方もあり、同じ失策を繰り返さないという思いが透けてみえます。ただ、同じ強硬姿勢でもトランプ政権との違いは、アメリカ一国で対立するのではなく、「同盟国を巻き込むこと」だという指摘があります。例えば、新疆ウイグル自治区におけるウイグル族への人権侵害については、欧州連合とイギリス、カナダと歩調を合わせる形で中国共産党幹部への制裁を発動しました。また、台湾問題については、4月の日米首脳会談での共同声明に「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する」と盛り込むなど、日本の強い関与を求めています。


・台湾海峡の有事が現実的に

 日米首脳会談の共同声明で「台湾」が言及されたのは1969年の佐藤首相・ニクソン大統領の会談以来とのことだそうです。軍事力を増強する中国に対し、強硬姿勢をあらわにするバイデン政権。米軍太平洋艦隊司令官のジョン・アキリーノ氏は3月末の米上院軍事委員会で「中国は予想より早く台湾を侵攻する能力を備えている」と発言しました。米軍の軍事費増強を狙う発言との見方もありますが、高まる対中圧力に中 国は、南シナ海海域での軍事演習など活発化させています。また、中国包囲網ともいわれる日米豪印による安全保障の枠組み「クアッド」への警戒心も強めており、台湾海峡での軍事衝突が現実味を帯びてきていました。


・英仏がインド太平洋地域に陸海軍を演習派遣へ

 4月末、英国政府は空母「クイーン・エリザベス」を中心とする空母打撃群をインド太平洋地域に派遣し、日本、インド、韓国などに寄港すると発表しました。英国は3月に公表した外交・安全保障政策「統合レビュー」の中で、インド太平洋地域を「世界の地政学的中心になりつつある」と位置付けています。またフランスも海軍がアジア地区に展開しているフィリゲート艦の活動を活発化し、陸軍は自衛隊との初の合同演習を日本の陸上で行います。さながら欧州の主要国がインド太平洋地区を新たな地球の火薬庫と認識したかのようであります。


・新型コロナワクチンの接種が進まない日本

 新型コロナの感染拡大が「第4波」を迎えた日本ですが、ワクチンの接種が世界の中でも圧倒的に遅れています。ワシントンポストで井上未雪氏が引用している統計によると、「少なくとも1回目の接種を終えた人の総人口に占める割合」は、5月上旬 時点で、イスラエル約62.7%、イギリス約52.7%、アメリカ約45.7%などに対し、日本は約2.89%。 主要7カ国(G7)の中では最低です=グラフ。国内産のワクチンが無く輸入に頼らざるを得ない。国内の承認基準が特異であり安易に接種許可を下せない。対象接種者に接種手順の通知が届くシステムが未整備、など、接種状況が他国に比べて劣後している背景は様々あれど、まぎれもない事実として劣後しています。



・五輪をめぐる迷走

 7月23日に開幕予定の東京オリンピック・パラリンピック。5月12日の時点で、いまだにどのように開催されるのかがはっきりしていません。4月15日に報道された共同通信社による全国電話調査によると、「今夏開催するべきだ」とした人の割合は24.5%。「再延期すべきだ」は32.8%、「中止」が39.2%。再延期、中止を合わせると72%となっています=円グラフ。五輪向けに協力を求められた医療現場からは、「とても対応できない」という悲鳴が上がっています。5月に入り国内外で急速に中止を求める声が目立ってきました。政府は実施を前提に粛々と準備を進めているとのことですが、国内の意見は割れています。事態を混乱させている原因は、政府が取る姿勢の背景(理由)の説明がないことです。なぜ実施するのか? なぜ中止にできないのか? 「死んでも言えない理由なので墓の中までもっていく」などと考えずに、すべてを洗いざらいお話ししてほしいものです。

・松山秀樹や大谷翔平の活躍

 ゴルフの松山秀樹選手(29)が4月、日本人、アジア人選手として初めて、ゴルフ4大メジャー大会である「マスターズ・トーナメント」で優勝しました。米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手(26)は、投手と打者の二刀流で活躍する様子が連日報じられています。テニスの大坂なおみ選手(23)、バスケットボールの八村塁選手(23)。世界で活躍するスポーツ選手たちの姿に励まされます。でも彼らはすべて海外で暮らし、活躍しています。スポーツの分野で、世界の一流のアスリートが日本で暮らし練習を重ねている、という情報にはめったに出会いません。GDP世界第三位の富を生み出す力のある国なのに。


・日々の暮らしの困難度の格差が拡大

 新型コロナの感染拡大が直接的な原因ではありますが、日々の生活に困窮している方々が増えています。仕事がなくなり収入が途絶えた。バイトがなくなり学費が払えない。残業代がなくなり住宅ローンが払えない、取引が中止になり従業員に給料が払えない、など。主にお金に関する想定外の事態に立ち尽くす人々が増えています。

 私事ではありますが、幼少期に父親が失踪し、以来長年母子で生きたために、随分と困窮した日常を過ごした記憶があります。62歳の今は自宅の冷蔵庫を開けると食料が備蓄してある生活を奇跡的に送ることができていますが、一方で前述のように立ち尽くす人々が増えている現実には心が痛み、我が人生を振り返りできる範囲でのお手伝いをしています。

 皆さんの選挙区で当選された政治家やそのご家族は、自宅を開放して周囲の方々に炊き出しをしていますか? メディアで発言するような高職位の政治家やそのご家族は、私財を提供して市民、国民の日々の生活を長年支援していらっしゃいますか? もちろん為政者のミッションの一つは、広く国政としてのセイフティーネットを構築することでありますが、ご家族をあげて市民、県民、国民の日々の暮らしを支援する愚直な行動がありえたとしたら。例えば大臣のご家族が毎日最寄り駅で、手作りのお弁当を配ってくださったら。その光景に国民のプライドと勇気は大いに醸成されることでしょう。

 昨今の国難に向き合う姿勢で、国政か地方自治かは問わず、為政者自身が自分の存在意義をどう認知しているか、が浮き彫りになりました。この世に特権階級などないのです。為政者の皆さんは、ゆめゆめ誤解されませんように。


日本の「順位」


次に角度を変えて、日本という国の「今」を、さまざまなランキングで見てみましょう。


・最も住みやすい国ランキング 17位

 世界の生活情報をデータで記録しているNUMBEO社が作成した「Quality of Life Index(生活の質ランキング)」の2021年版によると、日本は17位です。これは、購買力、安全性、医療、生活費、公害、犯罪などについて点数化したものを合計しランキングにしたものです。1位はスイス、2位はデンマーク、3位はオランダでした。アメリカは15位、カナダは20位、中国は65位でした。



・世界幸福度レポート 56位

 国連の持続可能な開発ソリューションネットワークが発行する「世界幸福度レポート」の2021年版によると、対象となった149カ国のうち日本は56位でした。この幸福度は、各国1000人を対象に、1人あたりのGDP、健康寿命、人生の選択の自由さ、寄付行為などからみる寛容さ、社会腐敗の深刻さの6項目で採点をし、その国の平均点を合計してランキングにしています。2021年の1位はフィンランド、2位はデンマーク、3位はスイス。アメリカは19位、東アジアでは台湾が24位、韓国は62位、中国は84位でした。日本は、2010年代までは40位台でしたが、2010年後半から50位台に下がっています。


・ジェンダーギャップ指数 120位

 世界経済フォーラムが各国の男女平等について数値化したジェンダーギャップ指数の2021年版によると、日本は対象になった156カ国市中120位でした。G7諸国の中では最低です。目立つのは、政治分野への女性参加の低さ。また、経済分野でも女性の管理職・上級職の割合が低くなっています。2021年版の1位はアイスランド、次いでフィンランド、ノルウェー、ニュージーランド、スウェーデンが続いています。


・腐敗認識指数ランキング  19位

 国際NGOのトランスペランシー・インターナショナルが発表している各国政府の腐敗認識指数のランキングによると、日本は対象179カ国のうち19位。1位はデンマーク、2位はニュージーランド、3位はフィンランド、シンガポール、スウェーデン、スイスでした。米国は25位、中国は78位です。


・ビジネス環境ランキング 29位

 世界銀行・IFCが発表するEase of doing business indexによると、「ビジネスのしやすさ」において日本は対象190カ国のうち29位でした。ビジネスのしやすさ、とは、ビジネス活動における事業設立や手続きの容易さ、資金調達環境、納税環境などを数値化したものです。1位はニュージーランド、2位はシンガポール、3位は香港。日本は、シンガポールはもちろん、5位の韓国、6位のアメリカ、12位のマレーシア、21位のタイなどにも引き離されています。中国は31位でした。


・報道の自由度ランキング 67位

 国際的な報道関係者の団体「国境なき記者団」が、各国の報道の自由度について数値化してランキングにしたものですが、4月に発表された最新版で、日本は180カ国のうち67位でした。G7の中では最下位で、42位の韓国、43位の台湾も下回りました。1位は5年連続でノルウェー、続いてフィンランド、スウェーデン、デンマークでした。


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 これらの事象やランキングは、私が現在の日本を読み解くために意図的に選び出したものです。しかし、いずれも事実の「一部 」であり、これからの日本の姿を考えるうえでヒントになるトピックスです。みなさんは、これらの情報から今の日本をどう読み解きますか。私はこんな風に考えます。


・日本は、深まる米中対立のはざまで、経済的にも外交的にも軍事的安全保障にも自立した判断を下せずにいる。「西か東か」の単純な時代は終わり、中国やアフリカ、インドの台頭を見据え、世界のパワーバランスは複雑に変化し始めている。その基軸は、富の分配としての資本主義か社会主義か、あるいは国家の統治体制としての個人主義(民主主義)か全体主義(独裁主義)かだ。また、環境問題や感染症対策といったグローバルイシューを通して、国力を測る新たな指標や価値観も生まれている。日本はこれから先、何を選び、どこに行くのか。地球上での居場所が見えない。


・国内に目を向ければ、新型コロナ対策、五輪問題など、為政者と国民の信頼関係は崩壊している。だれも経験したことがない困難に立ち向かわなければならない今、為政者に求められているのは、政策の背後にある状況の実直な説明と、国民に対する真摯な語りかけである。しかし、そのありようは我が国においては実は相当に難しい。為政者、なかでも国政を担う為政者の、特に影響力のある権力者と言われる方々の多くは、生まれた時から政界や財界に関係する家系で、非正規雇用や転職、あるいはひとり親 家庭での貧困を体験したことがないからである。ゆえに隅々までの国民の生活や人生を想像できない。彼らが無能なのではない。彼らには、国民の生活苦や人生苦が想像できないのである。日本は、為政者と国民の間に誠意ある対話が成立しない国になってしまった。


・政財界に居座る「オールドボーイズクラブ」の壁に阻まれて、女性や若者が自由で現実的な「解」を打ち出せずにいる。そのことが、時代の変化にまるで追いついていない旧態依然とした日本を作り上げた。ゆえに力のある若者は世界に飛び出していく。世界で絶賛される彼らの行動や発言は、いずれも忖度や同調圧力に覆われた日本のムラ社会ではマイノリティとされるものばかりだ。屈託のない実直な発言は、時に直接的な反発も生むが、基本的には清々しく健康的であろう。


 私は、抗えない人口減少と経済縮小を抱えながら、国際社会を漂流する様が日本の近未来だと思います。ただ、悲観的に評論することだけでは無意味であり、ここに反転する処方箋を見つけることが、これからの日本と日本人にとっては絶対的な命題であると考えています。私のキーワードは、日本の「リポジショニング」です。

 次回からは、この処方箋について考えていきたいと思います。お付き合いくださいませ。


※「オノコミ・ジャーナル~衰退局面の日本を反転させる処方箋」は、毎月12日、28日に更新します。



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