変革人材を活かす企業とは
✅変革人材を活かす企業の組織長は、「無邪気なロマンチスト」である。彼らが創り出す「やってみなはれ」に代表されるという企業文化が、変革人材に同質から離脱し、異質と協働する喜びを与え、企業の高付加価値創造へとつながる。
✅来るべき大フリーランス時代。どの会社で働くかよりも、誰と働くかが重視される。自らの力で価値を生み出す変革人材を育て活かすことが、高付加価値創造の必須条件だ。
✅企業内に変革意識はやがて企業外に広がり、社会を構成する一人ひとりの意識を変える。変革人材を企業が活かし支えることは、新たな社会貢献なのである。
株式会社小野田コミュニケーションデザイン事務所の小野田孝です。
私は経済学者や評論家ではありません。1983年より(株)リクルートという類いまれな変革気質に富んだ壮大なビジネススクール型企業に21年間在籍し、その経験を基盤に2005年に独立。以来15年間、顧客企業の組織と働く人の変革を通じた事業支援を続けている、現場たたき上げの「かかりつけ医型コンサルタント」です。
前回の「ジャーナル」では、高付加価値経営の原動力となる変革人材の特徴についてお話ししました。今回は、変革人材を活かすために企業や社会はどうあるべきか、ということを考えます。
●すべての世代に「変革」の責任がある
これをお読みの方には、いろいろな世代がいらっしゃると思います。変革人材を活かす企業についてお話しする前に、年代別にどのように「変革」と向き合うべきか、をお話します。おさらいになりますが、変革人材とは、同質から離脱し、異質と協働する喜びを知る人たちです。「群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い」(ドクターXより)、自分自身の力で高い価値を企業や社会に提供することができる人たちのことです。変革人材になることがそれぞれの世代にとってどんな意義があるのか、まとめてみます。
<40代~50代>
社会や企業が変わるには3世代の時間がかかります。あなた方は、縮む日本の新たな繁栄モデルを構築する第一世代です。(「縮む日本の根拠と新たな繁栄モデル」については1月12日号でお話しします。)ゲーム中にルールが変わった世代ともいえます。時代の変わり目に立たされ、国や社会や企業の在り方に一石を投じ、変革の胎動を起こす世代ですが、一方で固定概念や抱えているものの重さに悩むことで身動きが取れないジレンマも抱えがちです。ご家族や周囲のご関係者とも相談をしながら、勇気をふるって変革の一歩を踏み出してください。その背中を、若い世代(お子様がいらっしゃればお子様の世代)が戦々恐々としながらも彼らの未来への期待を込めて見ています。
<20代~30代>
あなた方は、縮む日本の新たな繁栄モデルを構築する第二世代です。ロールモデルがはっきり見えない現実に身を置きながら、自身の志と運命を信じて企業や社会の原動力となる世代。昭和や平成の時代(経済規模が増加したか維持された時代)は、先人(親や上司や先輩)の実績や経験をアップデートすることが繁栄の条件でしたが、令和以降の時代(経済規模が縮小か激少する時代)は、先人(親や上司や先輩)の業績や経験を取捨選択しながらリフォームすることが新たな繁栄の条件です。あなた方世代の自覚次第で、日本と日本企業と日本社会の盛衰が変わります。
<~10代>
あなた方は縮む日本の新たな繁栄モデルを構築する第三世代です。第二世代の背中を見て、世界で通用する日本と日本企業、世界の人々に必要とされる日本と日本企業、その結果として強い自信とプライドが宿る日本と日本企業と日本社会の存在を、確かなものにしていきましょう。2060年(あなた方が大人のど真ん中のころ)には、日本人は地球上に約8000万人(内4000万人近くが65歳以上)しか残っていませんが、大丈夫です。政治も経済も社会のルールも、あなた方と一つ上の世代の叡智で上質化していることでしょう。これからの日々のあなたの時間を、やわらかい心と頭脳を鍛えながら、日本にとどまらず、広く世界に目を開いて「個」として自立するための基礎固めに使ってください。
<60代~70代>
我々は(私も61歳なのでこのような言い方にします)一番厄介ですね。自身が生きた時代の発展や成長の記憶が強すぎて、日本や日本企業や社会の豊かさと安全は変わらないと信じる慣性が、変革をどうしても邪魔します。この世代は変革しなくてよいです。中途半端な変革は、自身のこれまでの人生を否定することと同義になるからです。60代以上がやることは一つ。これからの日本や日本企業や日本社会は変革することが必要だ、と次世代に伝え、そのための仕組みや仕掛を支援することです。「引退」も変革のための選択肢の一つです。政界でも財界でも。
<80代~>
人の尊厳が続く限り、天寿全うまでお健やかにお過ごしくださいませ。そして叶うのであれば、歴史を後世に語ってください。我々は大河の一滴ではありますが、今を生きるこの局面では悠久の時に身を置いています。これからの発展は、これまでの発展と非連続の様相を呈しますが、それも連続性を理解して初めて、ことの判断が可能になります。
それぞれの世代に、高付加価値創造と変革人材育成における責任があることが分かっていただけたと思います。オノコミ・ジャーナルの2回目で書いたように、日本の高度経済成長は、「4人家族」に象徴されるステレオタイプなライフスタイルが生み出す画一的な市場ニーズに支えられてきました。この時代の経済発展を体験した60代以上の人々にとって、変革を模索する人材が企業や社会に提供する価値の意義は理解しがたいかもしれません。しかし、時代の変わり目に立ち日本の戦後経済を作り上げてきた世代にはわかるはずです。時代は変わり、そのたびに新たな価値観が生まれてくるものだ、ということが。だから私は「変革を支援してほしい」と、書きました。
また私は、家庭の中で子育てを担う親の役割が、変革人材の創出に大変重要だと考えています。かつては家庭で子供の教育に影響を与える人は、おおよそ母親、という暗黙の役割分担がありましたが、現在はさまざまな形態があります。この子育てを担う立場の人々(親や教育関係者)が、国や企業や社会における変革の必要性を実感しないまま、子供の教育に関与すると、子供たちの中に変革の可能性は芽生えません。
たとえば、「はっきりと意思表示をしては、だれかを傷付けるかもしれないからいけないよ」「目立ってはいけないよ」「お友達と違うことをしてはいけないよ」「周りの様子をよく見て周りが不愉快にならないように振舞わないといけないよ」「偏差値の高い学校に進学しなくてはいけないよ」「大規模な企業に就社しなくてはいけないよ」「就社したらつらいことがあっても我慢しなくてはいけないよ」「定年までパズルのピースのように無難に過ごさねばいけないよ」などという考え方を子供たちに植え付けていませんか。かつての日本や日本企業や日本社会が「正の原点」においていた価値観を持続しようとすると、大きな時代の流れに逆行する次世代を創ることになります。
これからの日本の質的な成長を支えるのが高付加価値経営であるとすれば、子供からお年寄りまで、職場でも家庭でも、すべての人たちが「変革人材」を育て、その価値を認め、活かす社会をつくる責任がある、ということがお分かりいただけたと思います。
<世界の人口ピラミッド> 世界の人口ピラミッドを2020年と2060年で比較してみました。現在の10代が壮年になるころの世界は、全体的に高齢化が進んでいますが、インドやベトナム、インドネシアなどではまだ釣鐘型を保っています。一方、日本やアメリカ、中国では若年層が今以上に減り、高齢者層が増えていることがわかります。日本が今、変革に取り組まなければならない理由がここにあります。
●「やってみなはれ」が示すこと
さて、漸く変革人材を生み出す企業の特徴や条件のお話に移ることができます。せっかく変革の志を持った人材がいても、企業が活かすことができなければ意味がありません。社員のキャリアデザインや企業理念の志に意義を感じない企業は、変革人材の可能性にフタをします。
ところで、企業にとっての「企業理念」とは何なのでしょうか。通常、企業は企業理念やビジョンといったものを掲げています。それを毎日、唱和する企業もあれば、社員がだれも言えない、という企業もあります。企業理念は、その企業にとっての礎です。創業者は、その理念に基づき起業し、あるべき姿をビジョンとして描いてきたのです。企業理念を粗末に扱う会社は、やがて礎を失い傾き、企業理念に共感しない被雇用者は企業から浮き上がり、次第に漂流していきます。
また、自らの礎と、あるべき姿を常に大切にしている企業は、同時に社会の変化にも敏感です。企業は社会の公器であり、公益に資する活動をするべきだと考えながら、自社のビジョンを目指していくからです。つまり、企業は「世の中をもっとよくしたい。人々をもっと喜ばせたい。結果としてそのことが自分たちの喜びとなる」という発想を持っている有機体なのです。変革人材は、そのような「企業文化」によって耕された土壌で育ち、能力を発揮するものです。
ここまでお話して、みなさんの中にはどんな企業が、変革人材を活かす会社として思い浮かんだでしょうか。
例えば、サントリーの企業文化を象徴する言葉、「やってみなはれ」。創業者の鳥井信治郎氏は、未知の分野に挑戦しようとして反対意見が出るたびに、「やってみなはれ、やらなわからしまへんで」と言って事業を進めたそうです。開拓者の覚悟と責任を示すこの言葉は、サントリーグループの「DNAになった」と言われています。100年以上も前から受け継がれてきた言葉ですが、高付加価値経営と変革人材を象徴するフレーズだと思います。
また、リクルート(現リクルートHD)は、創業者・江副浩正氏の言葉である「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」を旧社訓(私が在籍していた時にリクルート事件が起き、社訓を「旧」としました)としていました。私自身も含め、多くのリクルート出身者は卒業後もこの言葉を大切にしています。自ら付加価値を創出し社会に貢献する人材であれ、という生き方を社員に促す旧社訓でした。
鳥井氏、江副氏のほか、盛田昭夫氏や本田宗一郎氏など、稀代の経営者の皆様方はみな、変化を恐れない、無邪気なロマンチストであったのではないかと思います。それぞれのロマンをビジネスで実現しようとした人たちです。そして彼らはその見ている夢を実現するためのビジネスモデルを構築し、市場を創り、多くの雇用者を生み出しながら社会を豊かにしていったのです。ワクワクするような妄想をエンジンにして、頭の別の部分でビジネスモデルを作り上げる能力も十分にお持ちでした。そんな2つのエンジンを持つ経営者、企業人、組織長のもとで、変革人材は育つのだろうと思います。
<大学発のベンチャー企業>イノベーションや変革の意識に因るところが大きい大学発のベンチャー企業は、日本再興戦略に必要不可欠といわれますが、諸外国と比べて成功例がまだ少ないとされています。とはいえ、その数は右肩上がりに伸びており、2017年度には2000社を超えました。経産省の調査によれば、業種別では、情報通信技術(アプリケーションやソフトウェア)やバイオヘルスケア・医療機器の分野が目立ちます。
●守破離の精神で変革に臨む
企業が変革人材を活かすことで、高い付加価値が社会に提供され、その総和が経済成長のエンジンとなり日本の衰退局面が反転していく。この因果関係を今までお話してきました。ところで変革人材は経済活動の貢献とは別に社会のありかたにも影響を与えます。社会のムードを変えていく、日本人が未来に希望を持ち自信を取り戻すことの牽引者であるということです。変革人材を生み出す企業は、社会全体の変革志向をも醸成していくということです。企業内の変革意識が、企業外にも波紋のように広がり、一人ひとりの意識を変えていくのです。これは素晴らしい社会貢献である、と私は思います。
私はこのジャーナルでずっと「変革人材」の重要性を指摘しています。私の言う変革は、今あるあらゆるシステムや仕組みを早急に壊すことではありません。過去をやみくもに否定することでもありません。変革にもマナーやルールがあるのです。最後にそのことについて日本古来の伝統文化の教えになぞらえて解説します。
「守破離(しゅはり)」という言葉をご存じでしょうか。茶道の千利休の教えにあった「規矩作法守りつくして破るとも離るるとても本を忘るな」から引用されたものです。伝統文化を受け継ぐ際の心構えのことで、まずは師匠の型を学び、守る謙虚さを持つこと。それが「なぜ変革するのか」「何を変革するのか」という基礎の思想を創るのです。そして視野を広め、鍛錬を重ねたのちに信念をもって型を破り、自分の型をつくる。さらには自分の型を極めたのち、すべての型から離れて自由となりそこに新たな道が生まれる。これが、守破離です。
変革人材がたどる成長の軌跡もまた、守破離であるべきだというのが私の持論です。
そして、前回のジャーナルでも触れましたが、まもなく日本は「大フリーランス時代」を迎えるでしょう。守破離でいえば、破と離の時代がやってくるのです。どの会社や組織に属して働くのかということよりも、誰と何をするために働くのかを重視する時代。企業がその存在意義を問われると同時に、一人ひとりの被雇用者が、自分の生み出す価値の重さを測られる時代ともいえます。組織と人材が、お互いに対する役割を対等に果たしながら価値を創造する。それが高付加価値創造経営だといえるのではないでしょうか。
あなたの会社は、変革人材を活かす高付加価値経営ができていますか。
※「オノコミ・ジャーナル~衰退局面の日本を反転させる処方箋」は、毎月12日、28日に更新します。
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