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首都東京、3回目の緊急事態宣言下、国家と国民のニューノーマルを考える

小野田 孝

 株式会社小野田コミュニケーションデザイン事務所の小野田孝です。

 私は1983年より(株)リクルートという類いまれな変革気質に富んだ壮大なビジネススクール型企業に21年間在籍したのち、2005年に独立して以来16年間、顧客企業の組織と働く人の変革を通じた事業支援を続けている、現場たたき上げの「かかりつけ医型コンサルタント」です。評論家や経済学者ではありませんが、オノコミ・ジャーナル「衰退局面の日本を反転させる処方箋」を昨年の秋よりホームページで展開し、続いて、新リーズとして「2100年、リサイズにっぽん~人口減少時代の新芽の息吹」をお送りしました。

 今回のジャーナルは、以前掲載した内容を振り返りながら、新しい時代に必要な発想の転換について考えたいと思います。なかでも今年1月に公開した「緊急事態宣言下で考える~ニューノーマルで生き切るための処方」は、3度目の緊急事態宣言下にある今、改めて語りたいことを多く含んでいます。内容をアップデートしながら、お話ししていきたいと思います。


●日本が直面する3つの課題


 新型コロナウイルスのこれ以上の感染拡大を抑制するため、政府は、東京、大阪、兵庫、京都の4都府県を対象に4月25日から3回目の緊急事態宣言を発令しました。4月28日現在、その期間は5月11日までの2週間余りとされています。

 1月12日に公開したオノコミ・ジャーナル「緊急事態宣言下で考える~ニューノーマルで生き切るための処方」では、「目下の状況は、幾度の大規模災害に対する国家の対処の遅れと同様で、今回は医療機関がその任を果たすことが難しくなり、感染者は医療機関に身を置くことなく自宅で生涯を閉じる、という事態を生んでいます。1月12日時点で改善の兆しは見えません」と、書きました。現在の事態はこの時よりも悪化しており、深刻になりました。

 ところで私は、ここでコロナ禍の乗り切り方や感染状況の分析を書くつもりはありません。1月の記事もそうですが、新型コロナ対策以外にも今日本が簡単には解決できない、長期的で深刻な課題を抱えていることに着目し、私たち自身が、国と国民の関係を考え直す時代に入っていることを提起したいのです。そのことが、新型コロナのパンデミックにより、一層くっきりと浮かび上がったのだと考えます。

 今の日本が直面する課題は、主に3つあります。「人口減少」、「財政赤字」、そして今回の感染症対策も含めた「安全保障」です。これらの国家規模の課題と一人ひとりの人生との連関を考えることで、コロナ禍の私たちが、国の在り方や為政者との関係をどうしたらいいのかが見えてくると確信しています。

 さて、この3つの主要な課題について、簡単にまとめてみます。詳しくはこちらをご覧ください。


① 人口減少

 わが国の人口はここ数年でも毎年50万人近く減少しています。約80年後の2100年には4,000万人から6,000万人まで縮む、との見通しです。加えて、人口の約40%を65歳以上が占める高齢化が起きています。我が国のように、相当程度の大きさの経済規模と人口を持つ国家が急速に縮む様は、近代史上では初めてのことです。時の為政者は恐らくこの事態に対応できません。


② 財政赤字

 国の借金(国債や借入金など)は、2020年3月末時点で1,114兆円を超え、過去最大となっています。現在では赤字国債の発行が常態化し、真水の歳入と真水の歳出が大きくアンバランスになっています。国のコンディションを考えると、今後は歳入は減り、歳出は増えます。この状態の是非にはいろいろな意見がありますが、私はこのアンバランスを毎年当たり前に拡大していくことは不健全だと思います。時の為政者は恐らくこの事態にも対応できません。


③ 安全保障

 安全保障のなかでも、私は特に「国防・防衛」「食料」「エネルギー」「災害」の4分野の不安定さに着目しました。我々がコロナ禍ですでに体感しているように、感染症対策は、国防、災害といった分野にかかわることです。また、台湾をめぐる動きがここ1カ月ほどでにわかにキナ臭くなり、ひとたび軍事衝突が起きれば、米軍基地を抱える我が国はその当事者になり得る、という現実が迫っています。政府は、「国民の生命と財産を守る」というミッションを遂行するにあたり、安全保障の観点で重大な課題を抱えていますが、時の為政者では恐らく有事に対応できません。


第一列島線、第二列島線は、中国の対米防衛戦略上の概念を示すライン。第一列島線は、日本の九州から沖縄など南西諸島、フィリピン、カリマンタン島まで続く。第二列島線は、伊豆諸島、小笠原諸島、グアム・サイパン、パプアニューギニアに至る。菅義偉首相とバイデン米大統領は4月16日の首脳会談後の共同声明で「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する」とし、台湾有事への危機感が高まった。


●新しい国家と個人の関係


 これらの課題は、広く国民から尊敬され負託を受けた最高の為政者たちの叡智を結集しても解決できないものなのだ、と私は考えます。では私たちは、いったいどのようにこれからの時代を生き抜いていったらいいのでしょうか。

 私はここで、コロナ後の「ニューノーマル」を広義でとらえ、国家と個人、企業と被雇用者との関係を変えていくことを提案しています。そして、この広義のニューノーマルとは、「為政者と国民が絶え間ない対話と深い信頼関係により結ばれ、高付加価値創造企業が恒常的に利益を生み出し高位の労働分配を続け、結果として財政を安定化させる状態」をゴールとするべきだ、と考えています。その為に必要な、未来に向けての「方針の解」が、「国家と国民の協業」、「為政の役割分担」だと考えます。

 戦後75年間にわたり日本では、企業が生産年齢人口(15歳以上65歳未満)の生活を守り、国家が年少人口(15歳以下)と老齢人口(65歳以上)の生活を守る、というバランスで安定を維持してきました。しかしその役割構造が崩れ、各層の国民の生活の安定が維持できなくなってしまったのが現状です。

 このような状況においては、国民は自立することを求められます。「一人ひとりが、自身で生ききる知識と能力と覚悟を持つ」ことが求められ、「国が何をしてくれるかではなく、国に対して何ができるか」を考えた行動が必要になります。一方国家は、極めて建設的なビジョン(国の将来像)を国民に提示することが役割になります。国民に向けての正確な情報開示が求められ、透明性が高い政権運営が必要になるのです。これが、国家と国民の協業、そして為政の役割分担です。

 ただ、いずれも難しいですね。国民にとっては、いきなり自立を求められても皆目見当が尽きませんし、為政者にとっては、米国の承認を担保に国家運営を進めてきた慣習から離れ、自身で国家のビジョンを掲げることなど全く想定してきたことがありません。国が答えをくれない中で迷う国民と、米国が答えをくれない中で迷う日本。きわめて難解な局面に入りました。

 しかしコロナ禍を乗り越えるためには国家と国民の変革が必要です。そしてそれが、衰退局面にある日本の未来を変える唯一の道であると強く思う次第です。


●リサイズ、そしてリポジション


 人口減少は「縮んでいく」と捉えるのではなく、知恵と時間のエネルギーをもって全く別の世界を作り上げる楽しみな機会として考えたいと思います。

 一般的には人口が5,000万人規模だと、国内市場に参入できる企業数は業界内で1~2社と言われています。これから先の人口減少の過程で、国内の市場規模と業界傘下の企業数が適切なバランスになるまでは、厳しい淘汰が起きるでしょう。しかしこれは、経済基盤の再構築には必要な過程です。また、実は人口6,000万人規模の社会は、為政者にとっては今よりもずっと仕事がしやすくなります

 つまり、人口6,000万人に「リサイズ」した日本は、経済大国でありませんが、新たな価値観をもって世界の中で「リポジション」することが可能なのです。私たちは今から、リサイズ、リポジションの道を積極的に選び、経済、生活、教育など人生のあらゆる側面でその取り組みを始めなくてはならないと思っています。

 その思いを、架空の人物の会話形式で表現したのが、1月28日から7回にわたって掲載した「2100年、リサイズにっぽん~人口減少時代の新芽の息吹」シリーズです。2021年の今15歳の若者世代と、今40代の人たちが、それぞれ2060年に自分たちの来し方を振り返る、という想定で、これから40年後までの世界と日本の歩み、変化を予想してみました。

 これはもちろん、未来予想図です。しかも、人口減少を前向きにとらえ、大災害や軍事衝突の危機も乗り越えるという明るい想定が根底にあります。夢物語に聞こえるかもしれません。しかし変革は、現状を認識し、目指すべき自分と社会の在り方を見据えることから始まります。

 私がこのジャーナルを通して常に皆様に問いかけていることは、「あなたが目指す社会はどのような社会ですか。そしてそのために、あなたはどこから、どのように変革を始めますか」ということです。私が13回にわたって書いてきたジャーナルの中から、そのヒントを見つけていただけると嬉しいと思います。


 オノコミ・ジャーナルはこれからも、読者の皆さんとご一緒に、高付加価値創造と変革を実現するための処方箋を考えていきたいと思います。次回からはまた新しいシリーズがスタートします。お楽しみにどうぞ。                    


※「オノコミ・ジャーナル~衰退局面の日本を反転させる処方箋」は、毎月12日、28日に更新します。



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